細胞を培養して魚肉を作る「培養魚肉」「細胞水産業」は、これまで長く「未来の技術」として語られてきました。
しかし2025年は、この分野が研究段階から、限定的ながら商業段階へと移行し始めた転換点の年だと言えます。
本記事では、2025年12月7日に開催した魚ビジネス研究会のセミナー
「培養魚肉・細胞水産業の最新動向2025」をもとに、
2025年の主要トピック、技術と品質の到達点、そして今後の見通しを整理します。
前提:培養魚肉とは何か
培養魚肉とは、魚の可食部にあたる細胞を組織培養することで得られる魚肉のことです。
魚の筋肉細胞を取り出し、培養によって細胞分裂させ、それを形成・熟成させることで作られます。
技術的な難易度には段階があります。
最も再現しやすいのは「すり身」で、次に一定の質感が求められる「薄造り」、
さらに筋や血管といった構造の再現が必要となる「刺身」の順に、難易度が高くなります。
水産分野ならではの特徴として、次の点が挙げられます。
- お頭付きの丸魚を細胞培養で再現することは難しい
- 養殖が難しい魚種や、すり身用途の魚と相性がよい
- 天然資源が不足した際の補完的な供給手段となり得る
- 養殖用飼料としての活用が期待されている
- 内陸部でも魚肉生産の省力化・効率化が可能
- マグロ×ヒラメといった、新しい魚肉を理論上生み出すことも可能
培養魚肉の2025年最新状況
1)世界で初めて培養魚肉が商業販売される
2025年を象徴する出来事が、世界初の培養サーモンの商業販売です。
米国のスタートアップ企業Wildtypeが開発した培養サーモンは、2025年5月28日に販売を認められ、オレゴン州ポートランドのレストランで提供が始まりました。
その後、提供店舗は複数州へと拡大しています。
技術面でも進展が見られました。
血管構造を再現した白身魚の試作品や、細胞組織の高度化など、培養魚肉を刺身に近づける研究が、米国やインドをはじめ各国で続いています。
2)飼料用やスキンケアなど、活用用途の多様化
食品分野に限らず、培養過程で得られる成分を活用した、スキンケア・化粧品用途への展開も進んでいます。
魚肉そのものだけでなく、副産物や派生成分を活用する動きが広がっている点も、2025年の特徴です。
3)培養肉の量産に向けた動きが活発化
魚肉に限られることではないですが、培養肉の量産に向けた動きも活発になっています。
イスラエルの培養肉スタートアップBeliever Meatsは、米国ノースカロライナ州に年産1.2万トン規模となる世界最大級の大型工場を完成させました。
研究・実証段階から、産業として成立させるための設備投資が始まっていることがうかがえます。
※追記
2025/12/13のFoovoの記事によると、Believer Meatsは工場建設費をめぐる係争の末、事業を停止したことが明らかになりました。

日本における細胞水産業の動き
日本では、海外スタートアップの日本進出や、国内企業(マルハニチロなど)と海外スタートアップによる培養マグロの共同開発が始まっています。
また、大学によるニホンウナギの培養研究も進展しています。
加えて、政府レベルではフードテックが国家戦略分野に位置づけられ、細胞水産業を含む技術への注目が高まっています。
今後予想される展開
今後について、短期的に細胞魚肉が大量に普及する可能性は高くありません。
当面は、高価格帯・希少魚種・特定用途から段階的に進むと見られています。
日本では、2026年3月頃にガイドライン案が示される見込みです。
ただし、あくまでガイドライン案のため、すぐに一般流通が始まる状況ではありません。
重要なのは、細胞魚肉が水産業を一気に置き換える存在ではないという点です。
多くの場合、供給が不安定な部位や、特定用途を補完する形で入ってくる可能性が高いと考えられます。
登壇者:
NPO法人日本細胞農業協会 理事 杉崎麻友
「魚ビジネス」著者 ながさき一生
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