なぜ魚のブランド化がうまくいかないのか。落とし穴と成功のフレームワーク

「ブランド化すれば、高く売れる」

その考え方が、かえって失敗を招いているかもしれません。

近年、日本の養殖業を取り巻く環境は、かつてないほど厳しさを増しています。

飼料や燃料、資材価格の高騰に加え、人手不足による人件費の上昇が続き、生産現場の負担は大きくなっています。
さらに、海水温の上昇や赤潮の発生といった気候変動の影響により、生産リスクも高まっています。

これまで養殖業の強みとされてきた「安定供給」さえも揺らぎつつあるのが現状です。

こうした状況を乗り越えるためには、従来の価格競争に依存したビジネスモデルから脱却し、「いかに価値を高め、自ら価格を決められる状態をつくるか」が重要になります。

その鍵として注目されるのが「ブランド化」です。
しかし、その本質が正しく理解されていないケースも少なくありません。

本記事では、「養殖ビジネス2026年3月号」にて、さかなのNEWS編集長のながさき一生が寄稿した内容を一部ご紹介します。

目次

「名前をつける=ブランド」という誤解

ブランド化に取り組む際、多くの現場で見られるのが、「名前をつけてタグを付ければ高く売れる」という考え方です。

しかし、本来のブランドとは、単なる名称やロゴではありません。
「買い手の頭の中に、良いイメージや信頼が蓄積されている状態」を指します。

ブランド名は、その信頼を受け止める「器」のようなものです。
どれだけ立派な名前をつけても、その中身となる価値や評価が伴っていなければ、価格だけ上げても選ばれることはありません。

成功事例のマネがうまくいかない理由

もうひとつの落とし穴が、「成功事例の横展開」です。

「あのブランド魚が売れているから、自分たちも同じことをやろう」

一見合理的に思えるこの発想も、ブランドの世界では通用しないことが多いのが実情です。
他者の手法をそのまま真似ても、消費者の印象には残りにくいのです。

実際に水産業界では、柑橘類を餌に与えたブリなどの類似商品が増えた結果、先行事例以外は差別化が難しくなっています。

一方で、失敗のパターンには共通点があります。
それは、「価値の認識が十分に浸透していない段階で、価格だけを引き上げてしまう」ことです。
結果として、「なぜ高いのか分からない」と評価され、選ばれなくなってしまいます。

成功例を真似ること以上に、まずは「失敗する共通パターン」を避けることが重要です。

誰でも実践できる「戦略フレームワーク」

では、どのようにブランドを構築していけばよいのでしょうか。

重要なのは、マーケティングの基本に立ち返ることです。
つまり、「何を」「誰に」「どうやって届けるのか」を明確にすることです。

例えば、熊本県天草で真鯛やフグを養殖する株式会社ふく成では、自社の商品を誰に届けたいのかを明確にし、その相手に届く名前や販売方法を設計しています。

複雑な戦略である必要はありません。

シンプルに整理することで、生産者自身が主体的に戦略を描くことが可能になります。

ブランド化がもたらす「価格以上」の価値

ブランド化の効果は、販売単価の向上だけではありません。
自社の商品が価値あるものとして認識されることで、現場で働く人の誇りにもつながります。

「自分たちは良いものを扱っている」という実感は、モチベーションの向上だけでなく、離職防止や採用力の強化にも寄与します。

ブランド化とは、単なる販売手法ではなく、事業そのものの価値を高める経営戦略なのです。

価格競争から抜け出すために

同じ「マダイ」や「サバ」であっても、生産者ごとに強みや背景は異なります。
その違いを打ち出し、適切な相手に届けることができれば、価格ではなく「価値」で選ばれる状態をつくることができます。

重要なのは、「タグをつけること」をゴールにしないことです。
目指すべきは、「顧客の頭の中に、どんな信頼やイメージを積み重ねていくか」という視点です。

この積み重ねこそが、持続可能な養殖経営への道を切り拓いていきます。

※本記事は『養殖ビジネス』2026年3月号の寄稿記事をベースに構成しています。

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この記事を書いた人

さかなのNEWS編集部。魚、漁業、水産業のことを「広く」「深く」「ゆるく」伝えています。

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