関西の春の風物詩として知られるイカナゴ。特に瀬戸内海東部(大阪府、兵庫県、香川県)では、稚魚を甘辛く煮た「釘煮(くぎに)」の材料として、古くから家庭の味として親しまれてきました。
しかし近年、このイカナゴが記録的な不漁に見舞われています。
なぜ、イカナゴは急激に姿を消してしまったのか?
広島大学と水産研究・教育機構水産技術研究所による最新の研究で、そのメカニズムが明らかになりました。
漁獲量は2017年に「10分の1」へ激減
瀬戸内海におけるイカナゴ漁獲量は、2016年までは年間1万トン以上を維持していました。
しかし、2017年に事態は急変します。
漁獲量が前年の約1割(1000〜2000トン程度)へと突発的に激減し、その後も現在に至るまで3000トン未満という低水準が続いています。
これまで、この不漁の原因としては「海が綺麗になりすぎて、餌となるプランクトンが減少したこと」や「産卵量の低下」などが指摘されてきました。
しかし、これらは長い時間をかけて徐々に進行する現象であり、2017年の「突発的な激減」を説明するには不十分でした。
鍵を握る「夏眠(かみん)」の失敗
今回の研究で明らかになったのは、海水温の上昇が生態系に連鎖し、イカナゴが「食べられやすくしてしまった」という意外なメカニズムです。
①冬の海水温上昇と餌不足:
冬場の海水温が上がったことで、イカナゴの餌となる動物プランクトンが減少しました。
②夏眠ができない:
イカナゴには、夏場に砂の中に潜って動かずに過ごす「夏眠」という特殊な習性があります。
しかし、冬に十分な餌を食べられなかった個体は、夏を越すための栄養(脂肪)を蓄えることができず、夏眠に入ることができなくなります。
③捕食者のターゲットに:
夏眠できず、夏の間も海中を泳ぎ続けていたイカナゴは、天敵にとって絶好の獲物となります。
急激な減少の要因は捕食者の増加
さらに不幸なことに、2016年以降、瀬戸内海ではイカナゴを餌とするサワラ、ブリ、ハモ、スズキ、ヒラメといった漁食性魚類の数が多い状態が続いていました。
本来なら砂の中で眠っているはずの時期に、空腹で泳ぎ回らざるを得なかったイカナゴたちは、増えていた捕食者たちに一気に食べ尽くされてしまったのです。
これが、2017年に起きた急激な資源減少の決定的な要因だったと考えられています。
まとめ:複雑に絡み合う海の生態系
今回の発見は、単に「温度が上がったから生きられなかった」あるいは「人間が取りすぎた」といった単純な話ではなく、気候変動が生物の習性を狂わせ、それが食物連鎖を通じて劇的な変化をもたらすという、複雑な生態系の実態を浮き彫りにしました。
私たちの食卓に欠かせないイカナゴを守るためには、こうした科学的な知見に基づいた、多角的な対策が求められています。
参考:
2026(R08). 2. 5 瀬戸内海のイカナゴが突然減った謎に迫る ―環境変動で捕食される危険性が高まったことが原因―
広島大学 水産研究・教育機構
https://www.fra.go.jp/home/kenkyushokai/press/pr2025/20260205_press.html

