熊本県・天草の海から、新しい魚食の楽しみ方を提案し続けている女性がいる。
64年続く老舗の養殖業「ふく成(ふくなり)」の平尾有希(ひらおあき)さんだ。
ふく成の強みは、ただ魚を育てるだけではない。生産から加工・販売まで手がける「6次産業化」をいち早く実現し、コロナ禍を機に個人向け販売にも力を入れた。
育てているのは、マダイとトラフグ。縁起の良い名前にちなみ、「めでたい」と「幸福」を届ける存在でありたい——そんな想いが、この会社には根づいている。
「宿命」に抗い、改めて気づいた家業の意味
三姉妹の長女として育った亜紀さんは、幼いころから「家業を継ぐのが宿命」と言われてきた。だが反発するように、福岡へ出てアパレル業界へ。おしゃれを楽しみ、自分の世界を広げる日々。しかし、祖父の死と父の病をきっかけに、彼女の人生は大きく動く。
「初めて家業のことを考えました。従業員にも家族がいて、実家の会社が支えている生活があるんだ、と」
それでもすぐに戻るのではなく、彼女が選んだのは、銀行への就職だった。
「資金と信用がなければ経営はできない。銀行に就職して、お金と信用を勝ち取ってきました」
「余命半年」からの生還、命と向き合う時間
その後、家業に戻り、父の作った割烹料理店で女将として働くが、彼女をさらなる試練が襲う。
急性骨髄性白血病。医師からは「余命半年」と告げられた。当時24歳だった。
24歳のとき、「急性骨髄性白血病」と診断されたのだ。余命半年と告げられたが、骨髄移植と2年に及ぶ闘病を経て、奇跡的に回復。
「生かされているのは、きっと何か意味がある。だから、誰かの役に立てる人になろうと思ったんです」
治療によって妊娠が難しくなった体ながら、奇跡的に一人息子を授かることもできた。
家族の支え、医師の協力、そして自身の強い意志でつかんだ命だった。
母として経営者として、届けたい魚のかたち
母となった有希さんの経験は、ふく成の商品開発にも生かされている。
主力商品であるマダイは、忙しい家庭でも手軽に調理できるようにと、オリジナル商品を展開している。
解凍するだけで美味しく食べられる冷凍品や、子どもが喜ぶ「タイコロステーキ」「鯛ピザ」といった、親子で楽しめるもものだ。
「弊社のママさんスタッフを集めて、子供の好きなメニューを言いあい、それを真鯛で作っていきました」
消費者目線での商品開発は、食べチョクでの評価にもつながり、2年連続で「水産部門1位・総合2位」を受賞。
名実ともに、全国屈指の生産者となった。
技術と哲学を融合したブランド「Firesh®」

そして今、ふく成が新たにはじめたのが、新ブランド「Firesh®(フィレッシュ)」だ。
「天草の美味しい魚が最高に美味しい状態で世界中に届けられる、夢のようなブランドです」
有希さんは、自信を持ってこう語る。
Firesh®は、養殖での餌や育て方、出荷処理、そして冷凍技術にいたるまで、すべてが「美味しく食べてもらう瞬間」を逆算して設計されている。特殊冷凍技術により、解凍後には「生を超える旨み」が味わえるのだ。
天草の豊かな海を、そのまま家庭の食卓へ届けることができる夢のような仕組みだ。
自宅の冷凍庫に保存しておけば、いつでも自宅で「美味しい天草のお刺身」が楽しめる。
日常使いしやすく、それでいて品質はプロ仕様。Firesh®は、養殖業の未来を切り拓く存在となりえるものだ。
めでたさと幸福を届けるふく成の挑戦は、まだまだ続く。
これからも誰かの食卓に、小さな幸せを運び続けていくのだろう。
株式会社ふく成
平尾 有希(ひらお あき)
株式会社ふく成 URL: https://fukunari.jp
オンラインショップ: https://fukunari.theshop.jp/