愛知県碧南市。三河湾に面したこのまちで、100年以上にわたりうなぎ料理の味を守り続けてきた店があります。
それが、日本料理 小伴天(こばんてん)です。

1920年(大正9年)の創業以来、うなぎ料理を中心に日本料理を提供し、地元の人々に親しまれてきた老舗。
そんな小伴天がふるさと納税の返礼品としてうなぎの蒲焼を提供しはじめてから10年が経ったということで、小伴天の長田英三さんに話を伺いました。
この記事では、「小伴天のうなぎの蒲焼」が人気の返礼品となった経緯や、うなぎを次世代に残していくための取り組みについてご紹介します。
「まずはやってみよう」で始まった、ふるさと納税の挑戦
小伴天がふるさと納税に参加したのは、2014年のこと。
当時はふるさと納税の制度自体がまだあまり浸透しておらず、碧南市でも導入されたばかりの時期でした。
市の担当者から「うなぎの蒲焼を返礼品として出してほしい」と声がかかり、「お付き合いのつもりで、まずはやってみよう」と出品を始めたのがきっかけだったそう。
最初に用意したのは、「三河一色産うなぎの炭火焼1.5尾」のセット。
注文が入るたびに炭火で丁寧に焼き、真空パックして発送するという形で対応しました。

香ばしさと食感を真空に閉じ込める
実は、小伴天は画期的な調理法として、日本料理にいち早く真空調理を取り入れた料理店でもあります。先代は和食の真空調理法の第一人者としても知られています。
まるでお店で食べるかのようなクオリティのうなぎの蒲焼は、そんな真空技術もあってこそ。
小伴天の蒲焼は、蒸さずに炭火で焼き上げる関西風の「地焼き」です。

炭火で何度も返しながら、水分を逃さず香ばしく焼き上げることで、外はパリッと、中はふっくらとした食感に仕上げます。
この焼きの技術に加え、真空パックでも風味が損なわれない点が、全国の寄付者から高い評価を受けてきました。
「ありがたいことに、たくさんのご寄付をいただいて。最初は正直、何が起こっているのか分からないほどでした」
長田さんは当時をそう振り返ります。
昼営業が終わった後に炭火でうなぎを焼き、翌朝に発送準備。
そんな地道な作業を家族総出でこなしながら、小伴天の味を全国に届けていきました。
地域の食文化を全国へ。うなぎを次世代へ残す取り組みも
小伴天にとっては手探りで始まったふるさと納税への返礼品でしたが、今では年間を通して多くの方へ小伴天のうなぎの蒲焼を提供しています。
小伴天がある愛知県碧南市は西三河地区と呼ばれ、昔から醸造の盛んな地域でした。みりん、白醤油、たまり、味噌などが造られ、小伴天でも創業以来継ぎ足しで守り続けているタレには、地元のたまりを5種類ブレンドしたものに、上質な碧南のみりんを使って仕込まれています。

さらに、数年前からは三河一色産のブランドうなぎ「艶鰻(えんまん)うなぎ」も導入しています。
艶鰻(えんまん)うなぎは、厳しい基準を設けて育てられためすうなぎです。柔らかい食感でうま味成分が多いのが特徴で、これにより年間を通じて安定した品質の蒲焼を提供できるようになりました。
また、ふるさと納税による収益は、うなぎの放流事業にも活用されています。
「うなぎを扱う店として、うなぎを次世代に残していけるような取り組みに協賛していきたいと思いました」

創業から100年。
そして、ふるさと納税から10年。
小伴天は、うなぎという日本の食文化を次の世代へつなぐ取り組みをしています。


