「白身のトロ」と呼ばれ、高級魚として知られるノドグロ。
2026年2月5日に、近畿大学がノドグロの完全養殖に世界で初めて成功したと発表しました。
完全養殖で育てられたノドグロは実用化に向けて研究が進められている最中です。
しかし今回、完全養殖ではありませんが、近畿大学で養殖されたノドグロを食べる機会があったので食べてきました。
近大ノドグロ実食した感想とともに、世界初の完全養殖を実現した技術や、量産化に向けて残る課題を紹介します。
世界初の完全養殖に成功した「近大ノドグロ」とは
ノドグロは、正式には「アカムツ」と呼ばれる深海魚です。口の中が黒いことから、一般にはノドグロの名前で親しまれています。
脂の乗った白身が特徴で、「白身のトロ」とも呼ばれる高級魚です。とくに北陸や山陰などで水揚げされ、塩焼きや煮付け、刺身などで食べられています。
そのノドグロの完全養殖に、世界で初めて成功したのが近畿大学です。
完全養殖とは、人工的に育てた魚を親にして卵を採り、さらに次の世代を育てるというサイクルを成立させることです。
近大ノドグロの研究が行われているのは、近畿大学水産研究所の富山実験場です。研究には近隣地域の新潟県立海洋高等学校も協力し、親魚の確保にはノドグロ漁に精通した地元漁師の力も生かされています。
大学だけでなく、学校や地域の漁業者も関わりながら、長い時間をかけて実現した完全養殖なのです。
小さくても脂たっぷり。養殖ノドグロを食べてみた
2026年2月26日(木)から3月11日(水)までの期間限定で、近畿大学水産研究所・銀座店で近大ノドグロの特別メニューが提供されました。名前に研究所とありますが、立派な飲食店です。
ここでは、近大マグロや近大マダイ、シマアジのほか、クエとタマカイを掛け合わせた「クエタマ」など、近畿大学の養殖技術から生まれたさまざまな魚を味わえます。
今回の近大ノドグロは、串に刺した塩焼きで登場しました。

大きさは15〜18センチほど。ノドグロとしては、やや小ぶりです。ところが、一口食べてみると、その見た目からは想像できないほど豊かな脂が口の中に広がりました。
天然のノドグロは、小さいうちから必ず脂が乗っているわけではありません。個体差はありますが、ある程度の大きさまで成長してから、身に脂が乗ってきます。
しかし、今回食べた近大ノドグロは、15〜18センチほどでも驚くほど脂が乗っていました。
養殖では、与える餌や飼育環境を管理できます。そのため、天然ではまだ脂が少ないサイズでも、餌の工夫によって脂の乗った魚を育てられるのです。
脂が多いと聞くと、重たさやくどさを想像するかもしれません。
ところが、近大ノドグロの脂はさらりとしていて、身も非常に柔らかく、後味に嫌な感じが残りません。
小ぶりな分、骨の割合は多くなりますが、背骨はあらかじめ取り除かれ、骨せんべいとして添えられていました。頭から身、骨まで、余すところなく楽しめる一皿です。
さらに、食べ終えたノドグロに熱燗を注ぎ、「ノドグロ酒」にして味わってみました。
焼いた魚の香ばしさと脂のうま味が酒へ溶け出し、これも驚くほどの相性でした。
脂が酒に移ってもくどくならず、ノドグロの余韻を最後まで楽しめます。
価格は1尾1,980円ほど。まだ一般流通していない試験的な提供であることを考えると、むしろ安いと感じるほどの体験でした。
完全養殖に成功しても、すぐには量産できない
味の面では大きな可能性を感じる近大ノドグロですが、完全養殖に成功したからといって、すぐに市場へ大量に出せるわけではありません。
量産化に向けて、まだいくつもの課題が残されています。
その一つが、卵を確保する方法です。現在は船上で採卵する必要があり、安定して大量の卵を確保する仕組みは、まだ十分に整っていません。
また、生まれてくる個体がオスに偏る傾向もあるといいます。完全養殖を継続するには、次の世代を生むためのメスを安定して育てなければなりません。性別が偏る原因を明らかにし、管理する技術が必要です。
さらに、ノドグロは成長に時間がかかります。出荷できる大きさまで育てる期間が長くなるほど、餌代や設備費、人件費などのコストも増えていきます。
安定した種苗生産に加え、餌や飼育環境の改善、成長の早い個体を育てる品種改良なども、今後の研究テーマになるでしょう。
高級魚ノドグロが身近になる日は来るのか
近大ノドグロの量産化が実現すれば、天然資源だけに頼らず、ノドグロを安定して供給できる可能性が生まれます。
天然魚には、天然魚ならではの価値があります。育った海域や季節、餌などによって味が変わり、一尾ごとに異なる個性を楽しめるのも魅力です。
一方、養殖魚は餌や飼育環境を管理することで、品質を安定させやすいという強みがあります。近大ノドグロのように、小型でも脂を乗せられるのであれば、天然とは異なる新しい商品価値をつくれるかもしれません。
天然と養殖、それぞれの特徴を生かしながら、ノドグロを食べる機会を増やす新たな選択肢になり得ます。
現時点では研究段階にあり、いつでも食べられる魚ではありません。それでも、一口食べたときの驚きは、養殖ノドグロの未来を期待させるには十分なものでした。今後の研究が楽しみです。


