クロマグロの資源量が、大きく回復しています。
一時は歴史的な低水準まで減少していましたが、漁獲量を厳しく制限する資源管理が進められたことで、2022年の親魚資源量は約14万4,000トンまで増加。魚がまったく漁獲されなかった場合に想定される資源量の23.2%に達しました。
ここまで聞くと、「クロマグロの資源管理は成功した」と思うかもしれません。
しかし、話はそれほど単純ではありません。
クロマグロが急速に増えたことで、これまで見えていなかった新たな問題も浮かび上がっているからです。
クロマグロの資源は、なぜ回復したのか
一般に「マグロ」と呼ばれる魚には、いくつかの種類があります。
高級魚として知られるクロマグロやミナミマグロをはじめ、スーパーなどでもよく見かけるメバチ、キハダ、ビンチョウなどです。
今回、資源回復が注目されているのは、本マグロとも呼ばれる「太平洋クロマグロ」です。
太平洋クロマグロは、かつて資源量が大きく減少していました。そこで国際的に漁獲上限を設け、日本でも地域や漁業者ごとに漁獲枠を割り当て、さらに釣り(遊漁)も規制するなど、厳しい数量管理が行われてきました。
こうした取り組みが功を奏し、資源は当初の想定よりも早いペースで回復しました。
資源量が回復したことは、一見大きな成果にも見えます。
しかし、”想定よりも早く”回復したことが思わぬ弊害を生んでいます。また、クロマグロという一つの魚だけを見て、「増えたから成功」と判断してよいのでしょうか。
クロマグロが増えると、ほかの魚はどうなるのか?
クロマグロは、海の食物連鎖の上位にいる大型魚です。
成長するために、イワシやサバ、イカなど、さまざまな生き物を食べます。つまり、クロマグロが増えれば、その餌となる魚が多く食べられてしまう可能性があります。
たとえば、近年は北海道周辺でもクロマグロが多く見られるようになり、漁獲したクロマグロの胃から大量のサケの稚魚が見つかることがあります。
もちろん、サケやイカの不漁をすべてクロマグロの増加だけで説明することはできません。
海水温の上昇や海流の変化、餌となる生物の減少、漁業の影響など、魚の増減には多くの要因が関係しています。
ただ、クロマグロの急速な回復が、周囲の生態系やほかの漁業にどのような影響を与えるのかは、今後も注意深く見ていく必要があります。
クロマグロを獲る漁師にとっては、資源の増加は歓迎すべきことでしょう。
一方で、サケやイカ、イワシなどを獲る漁師にとっては、そうとは限りません。
日本では、一つの魚種だけを大量に利用するのではなく、地域ごとにさまざまな魚を獲り、食べてきました。
だからこそ、海全体のバランスから資源管理を考える必要があるのです。
獲ってはいけないマグロが、網に入ってしまう
もう一つの課題が、漁獲枠と実際の漁場とのずれです。
クロマグロの漁獲枠は、地域や漁業の種類などに応じて配分されています。しかし、魚は人間が決めた区域や枠に合わせて泳いでくれるわけではありません。
海水温や海流が変化すれば、これまでクロマグロがほとんど獲れなかった地域に現れることもあります。
特に難しいのが、沿岸に設置した網へ入ってきた魚を獲る「定置網漁業」です。
定置網にはクロマグロだけでなく、ブリやサバ、イワシなど多様な魚が入ります。漁師がクロマグロを狙っていなくても、ほかの魚と一緒に網へ入ってしまうのです。
その地域に十分な漁獲枠が残っていなければ、水揚げすることはできません。そのため、せっかく網に入ったクロマグロを海へ戻さなければならない場合があります。
ここで難しいのが、マグロという魚の性質です。
マグロは泳ぎ続けることで呼吸をする魚のため、網にかかって弱った個体を海に戻しても、そのまま死んでしまうことが少なくありません。
資源を守るための制度であるはずなのに、結果として獲れた魚を活用できず、無駄に死なせてしまう。そんな矛盾が現場で起きています。
欧米型の資源管理は、日本の漁業に合っているのか
日本では漁業法の改正を通じ、漁獲量の上限を決めて管理する方法や、漁業者ごとに漁獲枠を割り当てるIQ(個別漁獲割当)制度が導入されてきました。
これらは、もともと欧米で使われてきた資源管理の手法を参考にしたものです。
しかし日本の漁業には、一つの魚種だけを狙うのではなく、多様な魚を同時に漁獲するという特徴があります。一つの網に複数の種類の魚が入ることも珍しくありません。
そのため、欧米で機能している管理方法を、そのまま日本に導入してもうまくいくとは限らないのが実情です。
これからの資源管理に必要な視点
資源管理の手法は、漁獲量の制限だけではありません。
たとえば、網を入れる回数を減らす、漁を行う期間を短くする、小さな魚が抜けられるように網目の大きさを調整する。
産卵期や産卵場所での漁を控えたり、狙った魚以外が入りにくい漁具へ改良したりする方法もあります。
大切なのは、すべての魚や漁業を一つの方法で管理しようとしないことです。
魚によって、生まれてから成長するまでの期間も、泳ぐ海域も、増え方も異なります。地域によって海の環境や漁業の形も違います。何が効果的なのかは、魚種や地域、漁法によって変わるのです。
魚種や地域、漁業の実態に応じて、複数の手法を組み合わせていくことです。
これまで日本の現場で培われてきた管理方法も踏まえながら、それぞれの状況に合った答えを探っていくことが、これからの日本の資源管理に求められる視点ではないでしょうか。
著書『旨い魚が食べたい! 科学の目で見る漁業と魚食』
さかなのNEWS編集長のながさき一生の著書、『旨い魚が食べたい! 科学の目で見る漁業と魚食』では、水産資源管理にまつわる様々な疑問についてもわかりやすく触れています。
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これらの疑問に対して、中立な立場で解説しています。
持続可能な魚食文化のために、私たちができることは。そんなことを考えるきっかけになる一冊です。


