秋の北海道を代表する味覚のひとつ、「秋鮭」。しかし近年、その秋鮭が深刻な不漁に見舞われています。
北海道だけではありません。三陸や、新潟県村上市など、かつてサケ漁で知られてきた地域でも漁獲量が減っています。
なぜ、日本のサケはこれほど獲れなくなっているのでしょうか。
さかなのNEWS編集長のながさき一生が北海道を訪問して聞いた話をもとに、サケが減っている背景について考えます。
1)「サケの餌」が減っている

今回取り上げるのは、スーパーなどで見かけるチリ産の銀ザケやロシア産のベニザケではなく、昔から日本人が食べてきたシロザケ(標準和名:サケ)です。
シロザケは川で生まれ、海へ下って成長し、数年後に生まれた川へと戻ってきます。
北海道では、秋に沿岸へ戻ってきたサケを定置網などで漁獲し、「秋鮭」として出荷しています。
そんなサケが減っている原因のひとつとして指摘されているのが、海洋環境の変化です。
水産研究・教育機構の調査では、温暖化の影響によって、サケの稚魚が餌とする北海道沖のプランクトンが減少していることが報告されています。
川から海へ出たばかりのサケはまだ小さく、この時期に十分な餌を食べて成長できるかどうかが、その後の生存にも関わります。
プランクトンが減って稚魚が十分に成長できないことで、生き残って戻ってくるサケが減ってしまう可能性があるのです。
2)稚魚が他の魚に食べられている

サケを取り巻く環境の変化は、餌だけではありません。
もうひとつ考えられているのが、サケの稚魚を食べる魚の増加です。
「川から海へ出たばかりのサケの稚魚が大量に捕食されているのではないか」という説も挙げられます。
一時期は捕食者としてサバが挙げられていました。
しかし最近、北海道周辺で目立つようになったのがブリやマグロです。
マグロやブリは魚体も大きく、その分、食べられてしまう稚魚も多くなっている可能性もあるのです。
特にブリは、この10年ほど北海道で増えている魚として知られています。
海水温の上昇によって、もともと南側に多かった魚が北海道周辺まで分布を広げていることが背景にあると考えられています。
一方、マグロについては少し事情が違います。近年は資源管理が強化され、漁獲量が下がったことで資源が増えているとされています。
ここには、魚の資源管理を考えるうえで難しい問題があります。
たとえば「マグロを守る」ことだけを考えれば、マグロが増えるのは良いことです。
しかし、増えたマグロがサケなど別の魚を多く食べれば、ほかの水産資源に影響する可能性もあります。
だからこそ、特定の魚だけを見るのではなく、海の生態系全体を見ながら資源を管理する必要があるのではないでしょうか。
なお、ブリやマグロによる捕食がサケ不漁の直接的な原因になっているかについては、あくまで漁業者や研究者から聞いた仮説のひとつになります。
3)人工ふ化・放流の影響
そして今回、現地で話を聞く中で、興味深い話がありした。
それが、長年行われてきた人工ふ化・放流です。
北海道では、川へ戻ってきたサケから卵を採り、人工的にふ化させた稚魚を川へ放流する取り組みが行われてきました。
自然界では、卵から稚魚の段階で生き残ることが難しく、多くが死んでしまいます。
そこで、人の手でふ化させ、ある程度まで育ててから放流することで、安定して多くの稚魚を海へ送り出してきました。
ところが最近、その人工ふ化が別の問題を生んでいるのではないか、という考え方も出てきています。
自然界では、その地域の環境に適応した個体が生き残り、その性質を次の世代へ受け継いでいきます。
たとえば、サケの稚魚を食べる魚が多い環境であれば、うまく捕食を避けられたサケが生き残ります。
そうした自然淘汰を繰り返すことで、その環境に適応したサケが残っていくと考えられます。
しかし人工ふ化では、別の地域のサケを利用したり、自然界では生き残りにくかった個体も次の世代へつながったりする可能性があります。
その結果、その川や海の環境に適応する力が弱くなっているのではないかという仮説もあるのです。
これについても、現時点でサケ不漁の原因と断定できるものではありません。
ただ、「たくさん放流すれば資源が増える」という考え方だけでなく、その地域に適応したサケをどう残していくのかという視点が求められていることは興味深いところです。
北海道のサケ不漁はの問題は、海全体を見る必要がある
北海道のサケが減っている理由を考えていくと、ひとつの原因だけでは説明できないことがわかります。
魚の資源管理というと、ひとつの魚種について考えることが多くあります。
しかし海の中では、食べる魚がいれば食べられる魚もいて、すべてがつながっています。
変化する海の中で生態系全体をどう守っていくのか。
これからの漁業について、多角的に考えていく必要があります。
なお、今回紹介した内容のうち、捕食者や人工ふ化の影響については、漁業者や研究者などから聞かれた仮説を含みます。
サケが減っている理由には複数の要因が重なっていると考えられ、今後も検証が必要です。

